鍾馗嫁妹 / 三岔口 / 昭君出塞(上海京劇院)

2000/06/24

池袋、東京芸術劇場で、上海京劇院の訪日公演を観ました。武旦(立ち回りを主とする女優)として「色彩の旋風」の異名をとる史敏(シーミン)主演の「昭君出塞」をメインに、「鍾馗嫁妹」と「三岔口」を加えた3本立てです。

鍾馗嫁妹

科挙に落ちて自殺した鍾馗が自分を葬ってくれた友人と自分の妹を結婚させるというちょっとおどろおどろしい話ですが、鍾馗やその部下の鬼たちがユーモラスに描かれていて楽しい芝居でした。冒頭、暗い舞台上に立つ鍾馗が口元から火花を吹いてみせておおっと客席を驚かせ、厚底ブーツのような靴を履いた片足でバランスをとりながら様々なポーズを決めてくれます。さらに鬼の一人がアクロバティックな技を次々に繰り出してやんやの喝采。

三岔口

非常に有名な演目で、自分もかなり前に観たことがあります。歌舞伎のだんまりと同じように、舞台上は明るいが実は真っ暗やみという設定で、宿の主人と客の武士とが宿の一室で無言のまま激しい剣の立ち回りを見せます。武士役の張帆は不遜なまでに凛々しく、宿の主人役の厳慶谷は三枚目ながら奇抜な体技を見せて、いずれ劣らぬ面白さ。最後にお互いの正体がわかったときに、厳慶谷が「何だ、味方だったのか。さぁ、奥で一杯やろう!」と日本語を使ってみせてびっくりしました。

昭君出塞

お待ちかね史敏が中国四大美女の一人で匈奴王に嫁がされる悲劇のヒロイン王昭君を演じます。プログラムの写真で見る素顔の史敏は現代的な美人ですが、舞台上に現れた王昭君もまた本当に美しく、前半の宮廷を去る場面で悲痛な心情を歌い上げるシーンが切々と胸に響きました。後半の辺境への旅では、馬丁らとともに激しく回転系の踊りを見せながら、息をまったく切らさずに歌うところもさすがですが、できれば最後の故郷が見えなくなった場面でも、史敏のソロでの唱をもっともっとじっくりと聞きたいと思いました。

演目が始まる前に日本語のアナウンスであらすじが語られ、舞台の左右には字幕もあるので理解には困りません。各演目が終わると主演俳優がアナウンスで紹介されるのも初めての経験でしたが、親切とも言えます。舞台装置は極めてシンプル、というかほとんどないに等しいのですが、その分京劇ならではの華麗な衣装と派手な立ち回りが引き立ちます。上海の京劇は北京の伝統的なスタイルに比べるとより現代的ではっきりした演技だと言われていますが、役者の表情の豊かさや客席をはっきり意識した演出などは(好き嫌いはあるかもしれませんが)楽しめました。周りの観客も拍手のしどころをわかっていて、舞台と客席が一体になった公演でした。

配役

鍾馗嫁妹 鍾馗 奚中路
杜平 王世民
張艶秋
 
三岔口 任堂恵 張帆
劉利華 厳慶谷
焦賛 王宇
 
昭君出塞 王昭君 史敏
王龍 虞偉
馬丁 王宇

あらすじ

鍾馗嫁妹

生前、鍾馗は科挙に首席で合格したが、都に上る道すがら魔物の棲む洞窟に迷い込んで容貌が醜く変わってしまい、天子がそれを嫌って資格を取り消したので恥辱の余り自害し、天の玉帝によって厄除けの神に封じられていた。自分の亡骸を手厚く葬ってくれた親友の杜平に深い恩を感じ、遺した妹を嫁がせたいと考えた鍾馗は、梅香る里で一人わび住まいをする妹と再会してめでたく杜平との祝言をとりおこなう。

三岔口

焦賛はスパイを殺して沙門島に護送される。その身を守るために密かに後を追う任堂恵は、三叉路にある宿屋に焦賛らの行き先を問うが、宿の主人・劉利華は知らぬ存ぜぬを通す。実は、こちらも焦賛の危機を救おうとしていたのだが、そうとは知らずお互いの挙動を怪しんだ二人。一夜の宿をとった任堂恵の就寝後、劉利華が部屋に忍び込み、二人の間に真っ暗闇の中の死闘が繰り広げられる。そこに割って入ったのは焦賛、双方の誤解はやっと解けたのだった。

昭君出塞

前漢の都・長安。宮女・王昭君は、宮廷画家・毛延寿に賄賂を贈らなかったために肖像画を醜くえがかれ、そのせいで匈奴の王に嫁ぐことになる。弟の王龍が供をして、王昭君は琵琶を抱き涙ながらに車に揺られていく。途中山道にさしかかり馬に乗り換えるが、用意されたのは暴れ馬。道は険しく、王龍、馬丁と王昭君の道行きは辛いものだった。やっとの思いで国境に辿り着いた馬上の王昭君は、はるかかなたの故郷の地を振り向いて、自分を慈しみ育ててくれた父母、愛しい君主に思いをはせる。目の前にはいかつい姿をした異国の兵士たちが国王の花嫁を出迎えるために居並び、王昭君は新しい運命へ向かって歩き出す。