ダリ展

1999/06/20

新宿の三越美術館で「ダリ展」。

シュルレアリスムの巨匠ダリの没後10年、フロリダ州にあるサルバドール・ダリ美術館のコレクションを中心とする出品で、初期の印象派風の作品からシュルレアリスム期、晩年の古典的な作品まで幅広く展示してあり、油彩のみならず水彩・リトグラフ・写真など多様なダリの世界を眺めることができました。下に掲げた作品のほか、有名な《ポルト・リガトのマドンナ》や、のちに《サン・ファン・デ・ラ・クルスのキリスト》へと結実する習作《遠近法で描かれたキリスト》など重要な作品が多数出展されており、ルイス・ブニュエルと共同で制作した映画『アンダルシアの犬』も上映されていて、ダリのファンには見のがすことのできない展覧会となっています。

実際とても充実した展覧会で、よくこれだけ集められたものだと感心し、図録も迷わず購入しました。しかし『アンダルシアの犬』は冒頭に女性の眼球をかみそりで切り裂く場面が出てきて観客から悲鳴があがり、心臓の弱い(?)私も背筋に冷たいものが走りました。

▲《手(良心の呵責)》(1930年)。カタルーニャの詩人ソレルの銅像の大きな手は自慰行為を暗示し、冒涜的なスカトロジーやポルノ絵葉書の娘の顔の引用などで、カタルーニャ文化に対するダリの徹底した批判が描き込まれている。
▲《ミレーの《晩鐘》の考古学的回顧》(1933-35年)。画面下の人物との対比からわかるように、ここでの夫婦像は巨大な塔の廃虚となっており、奇妙な月明かりが独特の雰囲気をつくり出している。
▲《新しい人間の誕生を見る地政学的子供》(1943年)。胎盤の上の卵には世界地図が描かれ、姿を現しつつある男は新しい国アメリカから生まれようとしているが、旧世界であるヨーロッパは痩せ細り力を失いつつある。
▲《生きている静物(高速運動する静物)》(1956年頃)。オランダの伝統的な静物画に原子力時代の運動エネルギーを与えた作品。ガラスの器や宙をねじれる水の表現は驚異的なまでにリアル。
▲《キリスト教万国公会議》(1960年)。法王ヨハネ23世を讃えた巨大な作品で、キリストが持つ十字架で四分割された画面の上には父なる神、右には精霊が鳩と透き通った姿で表わされ、下にはガラとダリが描かれている。