塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

覇王別姫(大連京劇団)

1999/02/28

池袋、サンシャイン劇場で、大連京劇団の「覇王別姫」。有名な「四面楚歌」のエピソードをクライマックスに項羽・劉邦の戦いと虞姫の悲劇を描く「覇王別姫」は京劇の中でも伝統的な演目で、京劇らしい華麗な衣装やアクロバティックな所作以上に、項羽と虞姫の心理的やりとりに重点が置かれています。

楊赤の項羽は、最初は劉邦方の軍師である韓信の策に簡単に欺かれる愚将かと思えたものの、九里山での激戦の場面では圧倒的な強さを激しい立ち回りと堂々とした演技で見せて威風を表し、一方では虞姫へのいたわりや愛情といった人間味を示して観客に感情移入させることに成功していました。またヒロインの李萍は項羽との別れの場での悲痛な唱と自刎直前の剣舞で芸の幅と高さを共に見せつけてくれました。この二人の歌唱・舞踊・立回りの素晴らしさのおかげで、最初は鑑賞ポイントをつかみかねていた観のある観客も徐々に舞台に惹きこまれ、休憩を含めて2時間余りが演じきられた後のカーテンコールでは万雷の拍手が湧き上がっていました。

配役

項羽 楊赤
虞姫 李萍
劉邦 牟善倫
韓信 張大軍
李左車 沈兆盛
虞子期 平涛
項伯 劉廷建
周蘭 陳樹君
鍾離昧 譚作良
陳平 / 閔子期 于嘯童

あらすじ

紀元前206年。秦の始皇帝が没し、天下は乱れ群雄が割拠した。なかでも優勢を誇るのは西楚の覇王・項羽。一方、弱小だった漢の劉邦がじりじりと勢力を拡大していた。度重なる激戦の末、鴻溝で土地を分割し、講和条約を結んで一度は撤兵した両者だったが、項羽を追い落とすには今しかないと判断した劉邦は、条約に背いて兵を戻し、一気に項羽軍を追い詰めていく。
第一場:偽りの投降 漢軍の陣営。劉邦は知将・韓信に覇王攻略の良策を求める。韓信は知恵者を項羽のもとに遣わし、降伏したように見せかけて楚軍に出陣を促すことを提案し、その大役に李左車を任命した。また、陳平には項羽を誹謗する檄文をいたるところに撒くように命じ、徹底的に楚軍を刺激するとともに、諸将に九里山での伏兵を命じる。
第二場:仕掛けられた策略 楚の金殿。漢軍の追撃に楚軍は各地への援軍確保に奔走している。そこへ李左車が漢に背いて投降してきた。偽りの投降ではないかと一度は疑った項羽だが、死をもって疑いを晴らそうとする李左車に、楚軍に必要なのは有能な策略家だと喜んで迎え入れる。折しも韓信が撒いた檄文を目にして激昂した項羽はすぐにも出兵しようとし、李左車の進言にも後押しされて翌日の出陣を決める。
第三場:独断の出兵 楚の後宮。将軍・虞子期は項羽の愛妾・虞美人を訪ね、少人数の楚軍が今出兵することの不安を説き、出兵を中止するよう項羽を説得してほしいと頼む。今回の勝利は間違いなしと意気揚々と帰ってきた項羽。虞美人の説得にも項羽は聞く耳を持たない。
第四場:漢楚の激戦 劉邦は漢の軍勢を率い、伏兵を置こうとしている。他方、楚軍は沛郡へと進軍中。司令旗が風に吹き折られ、項羽の愛馬・烏騅が騒ぐ不吉な兆候に、周蘭、虞美人は撤兵を勧めるが、李左車、項伯の主張を聞き、項羽は進軍を続ける。劉邦軍と対峙して激しい戦いが繰り広げられ、逃げる劉邦軍を追って項羽は九里山に向かう。
第五場:九里山の罠 九里山を目前にして、項羽はようやく山に入ることの危険に気付き兵を休ませていた。そこへ李左車が投降を勧める。項羽は激怒した末、李左車の挑発にのせられて軍を率いて山へ分け入ってしまう。
第六場:漢軍の包囲 興奮した項羽は、韓信の率いる漢軍の布陣を破りに行き、苦戦する。救出に来た周蘭は戦死し、ついに項羽らは垓下に包囲されてしまう。
第七場:覇王別姫 垓下の砦、楚の幕営。虞美人は負け戦の項羽を優しく出迎える。項羽はこれは天が楚を滅ぼそうとしているのであり、戦に負けるのではない、とうそぶいてみせる。項羽に帳で休むように諭し、虞美人は月明りの中を歩く。その耳に、離反を相談する兵士たちのひそひそ話と四面から楚の歌が聞こえてくる。これは楚軍の士気を失わせるための韓信の策略だったが、劉邦が楚の地をとったのだと思った項羽は絶望し、虞には別れのときが来たようだと嘆き、愛馬の烏騅の行く末を悲しむ。虞は酒の用意をして、剣舞を舞い、項羽に江東へ落ち延びることを進言すると、足手まといになるまいと自害して果てた。
第八場:烏江に死す 馬を駆り、包囲を突破しようとする項羽の後を漢軍が怒濤のように追いかける。烏江に辿り着いた項羽は川を渡ろうとするが、船を持つ漁夫、実は韓信の命を受けた閔子期は馬だけしか渡せないと突っぱねる。烏騅は川に飛び込んで自害し、項羽は愛馬の心に打たれる。また、かつて部下だった馬丁・呂が現れ、江東に戻って再起を期すようにと進言する。項羽は故郷に帰っても人々に合わせる顔がないと改めて大いに恥じ、呂に懸賞金のかかったこの首をやろうと自刎する。