大英博物館 古代ギリシャ展

2011/08/13

空海と密教美術展」に引き続いて、今度は国立西洋美術館で「大英博物館 古代ギリシャ展」。サブタイトルは「究極の身体、完全なる美」で、その目玉展示は右のチケットにもある「円盤投げ」の像です。

こちらの展示の構成は、次の通り。

  1. 神々、英雄、別世界の者たち
  2. 人のかたち
  3. オリンピアとアスリート
  4. 人々の暮らし

これらの章立てによる展示を通じて、この展覧会では古代ギリシャの美術の粋となる「身体」の表現を追求しています。

まず第1章は、ゼウスやディオニュソス、アフロディテなどの姿が石像やブロンズ像で示された後に、アスリートたちの目標とも言うべき英雄ヘラクレスの十二功業が赤と黒で示されるアンフォラ(壷)の数々で紹介され、さらにスフィンクスの大理石像が続きます。ギリシャ人は、神々の姿も人の肉体のフォルムを借りて表現したということが語られるこのパートは、言ってみれば展示全体のイントロダクションのようなもの。

続く第2章がギリシャ美術における身体表現の変遷を学ぶ上では重要で、まず男性像のコーナーではエジプトの石像の表現に準拠したクーロスと呼ばれる固い、簡素で抽象的な紀元前6世紀(アルカイック時代)の人体表現が、徐々に動きを伴う姿に変わり、紀元前5世紀(クラシック時代)になると「優勝選手の像」「アポロン像」のように片足に体重をかけ反対の足はバランスをとるだけ(コントラポスト)のリラックスした姿に移り変わるさまが見てとれます。このコントラポストによる左右の腰の高さの違いは像の肉体(と、おそらくは心理状態と)に柔らかさを与えていますが、つい先ほど「空海と密教美術展」で見た「薬師如来および両脇侍像」の穏やかな表情をした両脇侍像が同様の腰つきをしていたことを思い出しました。また、続く女性像のコーナーでは、あれだけ男性の裸体にこだわったギリシャ人が女性に対しては着衣を通して浮かび上がる肉体表現の官能性を追求するという巧みさをみせていることに驚かされますが、やがて男性の裸体表現の限界に辿り着いたギリシャ人は「アフロディテ像」に見られる女性の滑らかな裸体像へと進んでいきました。

陰翳に満ちた表情を見せる「ソフォクレス肖像頭部」や「クリュシッポス肖像頭部」のリアル、「運動選手の頭部」の理想化された無表情、「赤像式カンタロス(酒杯)」のユーモラスを経て、第3章では本展覧会の白眉、ミュロンの「円盤投げ」が一室を与えられて見上げる位置に立っています。これは本当に素晴らしい!右足に体重をかけ、左足を後ろへ引き、円盤を持った右腕をぐーんと後ろに引き上げて上体を捻った姿は、今まさに引き絞られた弓のよう。この緊張感あふれるダイナミックな大理石の像はまた、これまでのさまざまな像と異なり一方向から鑑賞されることを想定したつくりとなっている点でもユニークです。しかし、この展示ではもちろんぐるりと周りを回りながら見ることが可能で、身体の前方に立てば左腕の肩の筋肉の柔らかな盛り上がりが、背後に回れば背中から臀部にかけての大きな弧が眺められます。なお、この像は1791年にローマ近郊にある皇帝ハドリアヌスの別荘で発見されたもので、ギリシャ美術の熱烈なファンであったハドリアヌスがローマ時代にミュロンのオリジナル(紀元前5世紀・ブロンズ像)を大理石の彫刻として複製させたものだったようです。また、現在ついている頭部は元来この作品のものではない上に、正しくは顔が円盤の方を向いていなければならないのに18世紀の修復で現在の姿にされてしまったとのこと。

さて、この辺で閉館時刻が近づいてきたために、後は駆け足での鑑賞。ギリシャ人のスポーツにかける情熱の数々をアンフォラやヒュドリア(水甕)の図柄で見てから、紀元前100年頃のオリンピアのジオラマを鑑賞。オリンピアで開催された競技祭の模様を再現した2分程度のビデオも上映されていました。

最後の章では、これまたたくさんのアンフォラやヒュドリア(正直、もういいですっていう感じ)の図柄といくつかの石像、美しい黄金の装身具などを通じて、ギリシャ人の生・性(しばしば同性愛も)・死を描き出します。展示はこの後に、ギリシャ美術がアレクサンドロス大王の東征を経て国際化し、表現上に個性とリアリズムを獲得していく様子を示して終わりますが、歴史の中では時代はヘレニズムへ、そしてやがてローマの台頭へと移り変わります。ただし、ローマは政治的にはギリシャを征服しましたが、文化的にはギリシャはローマの中に生き続け、ギリシャ美術の作品群はローマン・コピーとして現代にまで残されることになったのでした。

こちらのグッズ売場では、おなじみ海洋堂の「円盤投げフィギュア」(下左)を売っていました。海洋堂と言えば、あの阿修羅フィギュアが話題になりましたが、こちらはさすがにそこまでのインパクトはない感じ。腕も2本しかついてないし(←当たり前か)。

で、ヨシコさんが選択したのは当たるも八卦、当たらぬも八卦のガチャガチャでしたが、カプセルの中から見事に「円盤投げ」(上右)を引き出して、ヨシコさんは得意満面!